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カリフォルニア州マウンテンビュー在住のソフトウェアエンジニアがいろいろ書きます。

ストレンヂア -無皇刃譚- の感想

昨日、ストレンヂア -無皇刃譚-を観た。

2007年公開だから15年前になる。監督は安藤真裕花咲くいろはとかでも監督をやっていた。リアルな部分と外連味が両立する白兵戦アクションが見どころだ。

まったくの偶然なのかもしれないが、ビデオゲームのGhost of Tsushimaとかなり描かれている内容が似ている。あるいは元ネタのひとつなのかもしれない。共通する要素を並べると、まずユーラシア大陸からやってきた呪術を用いる異人たちが侍と戦う。ネームドキャラクターがあっさり死に、それは劇的には描かれない。命を失うことが日常のすぐそばにある、無慈悲な時代。冬の漁村のわびしい情景も似ている。あと大塚明夫が重要人物を演じている。

ストレンヂアにはアニメーションのためのアニメといった趣きがある。それはつまり、言葉で語られるものよりも絵の動きで描写されるものが物語を駆動しているということだ。動く絵として映える活劇にするために作ったとしか考えられない設定がいくつも登場する。たとえば、最終決戦のアクションの足場になるためにデザインされた塔。その足場のある塔で戦う都合をつけるために、仔太郎は捕獲されたあとも生かされ、儀式のために最上階まで連れてこられる。

実のところ、ここまで手が込みすぎだといかにも嘘っぽく見えるので自分はあまり好きでなかった。ストレンヂアはオリジナル企画であり、つまり原作はない。凄腕のアニメーターである監督が自由に設定を決められるせいで、ちょっとアニメに都合がよすぎる作りになってしまったように思う。ストレンヂアで一番の不満はそこだ。

だがそこに目をつぶると、この映画は非常によくできている。

アニメーションのよさでいうと、犬がかわいいうえにリアルだ。そして異常に強く賢い。仔太郎がピンチになると敵の急所を狙って苛烈な攻撃をしかけたりする。そのへんの人間より明らかに頼りになる。そして馬の作画もいい。リアルだし、かわいい。動物の作画は大変と聞くけどもよく動くね……すごいね……という気持ちになる。

というか作画が全体的によすぎる。もしいまオリジナル劇場アニメの企画を通そうとしても、このレベルのスタッフを集めて十分な予算とスケジュールを用意するのは無理だろう。オリジナルの劇場アニメはビジネスとして当てるのが難しい。ストレンヂア自体、おそらく興行収入は少ない。

作画と演出に関してはアニメスタイルに監督のインタビューを読むことをおすすめする。 http://www.style.fm/as/13_special/mini_070927a.shtml

ストーリーと伏線についてはこのWebサイトが非常に詳しい。 http://www.green.dti.ne.jp/microkosmos/anime/stranger.htm

自分が特に興味深く感じたのは、名無しと仔太郎の関係が変化するステップだ。名無しは、当初は仔太郎とは完全に他人同士である。用心棒としての契約が成立したあとも、係累となることを恐れてか距離をおこうとする。だがともに旅を続けるうち、擬似的な主従(かつての名無しが仕えた大渡の城主の子と仔太郎を重ねている)のような関係となる。それは天涯孤独の身上同士で成立した、家族に近いものになる。

それほど大きな事件があるわけでもなく、乗馬を教えたり、身の上話を語るといった出来事を経て、関係が変化していく。二時間に満たない上映時間で駆け足で語られたはずなのに、かなり自然に感じられた。このあたりはストレンヂアがうまいところだと思う。

アニメスタイルの記事でも言及されているように、ドラマとしては名無しが祥庵の袈裟を斬るところが最高潮となる。そこがプロットポイントになり、名無しの生きる目的が変化する。

なおタイトルのストレンヂアは主人公たち三人、つまり名無し、仔太郎、羅狼を指す。言われなくてもわかるだろうが。 https://animeanime.jp/article/2012/04/19/9933.html

名無しも仔太郎も、日本の外から来た人間なのでStrangerだ。山寺宏一演じる羅狼は「所詮は西戎」と言われているあたり、明から来た一団のなかでも異質な存在だとはっきり描かれている。ほかの刺客たちのように麻薬を使わず、仙薬を信じてもいない。

そういえば、山寺宏一が片言の日本語を話すキャラクターを演じているのは呪術廻戦のミゲルと同じやね。偶然だろうけど。

あと呪術廻戦の虎杖悠仁大塚明夫が演じている虎杖将藍(いたどり しょうげん)から名字を取ってきたのでは説がある。芥見下々先生は作画オタクだからストレンヂアをチェックしていないはずがないし。

ストレンヂア -無皇刃譚-は2023年2月4日現在Amazon Prime Videoで配信されています。 https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B076ZTMMWX/ref=atv_dp_share_cu_r