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カリフォルニア州マウンテンビュー在住のソフトウェアエンジニアがいろいろ書きます。

「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対する意見を郵送してきました

内閣府が中心となって、厚生労働省、警察庁、法務省など各省庁一体となって第2次児童ポルノ排除総合対策というのを考えるそうです。

で、内閣府はそこへの意見を募集しています。詳細はこのページ。 http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/bosyu/iken-haijo2.html

そこで、ぼくの意見を書いて送った。というのが今回の内容です。

これまでの経緯

自民党が児童ポルノ禁止法を改正して、将来的にマンガやアニメも児童ポルノに類するものとして規制しようとしています。

自民党は基本的に保守的な高齢者が多い政党なので、マンガやアニメみたいなよくわからんもんは規制したがるものです。みんなが大好き麻生太郎副総理も、表現規制に反対していないところを見ると規制推進派なんじゃないかなー? と思ってます。

麻生太郎は規制派?(余談)

実のところ、本人ははっきりと言明していません。規制派なのか反対派なのか、よくわかりません。「表現規制なんてどうでもいい」くらいに考えているのかもしれません。

じゃあ、過去の経歴を見てみましょう。

1991年当時、子供向けポルノコミック等対策議員懇話会なるものの会長をつとめていたようですね。 http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050530/p1 ただ、これはただのブログ記事なので、もしかしたら誤りや捏造があるかもしれません。一次情報を追うほど労力かけたくないのです。すみません。

子供向けポルノコミック等対策議員懇話会とは、少年誌、少女誌に性的描写があることを問題視した人たちが作った議員グループです。りぼんやちゃおで露骨な性的描写があったところで問題視すべきとは全然思わないんですけど、この人たちにとっては違ったみたいですね。

このグループが具体的にどういう活動をしていたかわかりません。20年以上前の話なので、思想的な変化があってもおかしくありません。あんまり頼りにならない情報でしたね……。

当然のことですが、ローゼン閣下こと麻生太郎がマンガ好きだからといって、表現規制反対派だとは思わないほうがよいです。非実在青少年条例でマンガを規制してしまった猪瀬直樹東京都知事もマンガ好きで有名です。ラストニュースというマンガの原作を手がけていたりもします。好き嫌いと思想、そして政治的立ち位置は別問題と理解しましょう。

麻生太郎さんの考えとして、いちばんありそうなのは「表現規制については規制推進派だけど、表だって言うと若い有権者が反発するから言明しないでおこう」じゃないかなーと思います。この人は、表現規制については賛成であれ反対であれ、言明すると票を失う立場です。なので沈黙を貫くのが賢い選択だと判断したのでしょう。

大きく動き出した表現規制

で、先日、自民党の高市早苗議員が、みんなの党政調会議に来場して、自民党の児童ポルノ法改正案を説明しに来ました。 http://taroyamada.jp/?p=2014 山田太郎参議院議員の公式ウェブサイトで公開されているので、信頼できる情報です。

そのときのTwitter上での盛り上がりがこちら。 http://togetter.com/li/493470

現在まだマンガやアニメは児童ポルノとして認定されていません。なので、刑法175条わいせつ物頒布等の罪を除いて、法的な規制はなされてはいません。が、改正案の施行後3年をメドに規制を検討するようです。

おおー、やっぱり自民党、マンガとアニメを規制しにきたかー、と感慨深いですね。当然ながら自民党内にも規制反対派はいるのですが、この状況を見る限りごく少数しかいないようです。保守的な老人の政党だからそうなるのも仕方ないですよね。常識的に考えたら、おじいちゃんおばあちゃん、おっちゃんおばちゃんにとって、エロマンガなんて愚劣で卑猥な悪書ですもんね。普段オタクとして生きていると、そんな単純な事実をつい忘れてしまいます。ふつうの人たちにとってはマンガといえばワンピース。「コミケ? エロ同人からプロになる? なにそれキモい!」くらいの感覚です。

でもこのまま手をこまねいてると彼らが最初共産主義者を攻撃したときになりかねないので、早いうちに規制反対の意見を奏上しようと決めました。

そして書きました。郵送しました。 以下がその本文です。

意見を内閣府に送りたくなった人は、このページに送りかたが書いてあるので、すぐ書いて送るとよいです。 http://www8.cao.go.jp/youth/cp-taisaku/bosyu/iken-haijo2.html

5月8日必着だから急いでね!

意見の本文

「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対する意見」

「第2次児童ポルノ排除総合対策」(素案)に対する意見を申し上げる機会をいただけましたこと、まことにありがとうございます。

児童ポルノとその対策に関して、不安に感じていることが3点ございます。

  1. 冤罪
  2. 不明瞭な法適用
  3. 本来の目的を見失う危険性

です。

警察や検察のかたがたにとっては耳の痛い話になるかもしれません。しかし、どうか最後までお読みくださいますよう、お願い申し上げます。

1. 冤罪

児童ポルノ法改正による冤罪の発生が考えられます。

冤罪が簡単に起こりうることは、遠隔操作ウィルス事件で明らかになりました。現在有力視されている容疑者が発見されるまでに、19歳の男子大学生をはじめ、4人が逮捕されました。そのうち3人が「自白」しています。

そして他人を児童ポルノの犯人に仕立て上げることは、遠隔操作ウィルスよりも簡単です。誰かのコンピュータに児童ポルノ画像を送りつけ、「あいつは児童ポルノを持っている」と通報するだけで、気に入らない人間を容疑者にできます。

警察や検察がコンピュータの知識を持たないことも、遠隔操作ウィルス事件で広く知られるようになりました。迷惑メールや迷惑ファイル送りつけを完全に防止することは不可能です。たとえセキュリティソフトを導入し、不審なメールには触らないよう気をつけても、穴を見つけて児童ポルノ画像を送りつけられることは防げません。

しかも児童ポルノとなると、弁護がしにくくなります。

大阪市市長の橋下徹氏が、光市母子殺害事件弁護団に対し、懲戒免職するよう扇動したことはご存じでしょう。これと同様に、児童ポルノの容疑者を弁護することが、あたかも悪事であるかのように叫ぶ人間が確実に現れます。児童ポルノ犯罪は、場合によっては殺人以上に卑劣な行為です。有罪かどうか判明する前であっても容疑者は白い目で見られ、社会的に攻撃されることは想像に難くありません。児童ポルノ事件の弁護を引き受けることを躊躇する弁護士も多いことでしょう。

無実のまま逮捕され、「自白」をさせられ、理性的な弁護もされず、児童ポルノ所持の犯人として投獄されること。ありえないように感じられるかもしれませんが、遠隔操作ウィルス事件や橋下徹氏の扇動を見ている限り、冤罪は十分起こりうると言えます。日本の警察においては別件逮捕という習慣があり、よけいに冤罪を発生させやすくしています。

どうか、冤罪を防ぎ、警察の暴走を止められるよう、よくお考えのうえ政策を決めてくださいませ。よろしくお願いいたします。

2. 不明瞭な法適用

日本における児童ポルノの定義が、アメリカ、ヨーロッパ諸国に比べて明らかに広い範囲を含有しており、曖昧で恣意的に運用されていることはご存じでしょう。

こちらにその定義を示します。

  • 一号 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態
  • 二号 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
  • 三号 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三号が特に問題です。この文言をしっかり読めば、恐ろしく広い範囲を含有していることがおわかりいただけると思います。

  • 「衣服の一部をつけない」つまり露出部位がデリケートな場所である必要はない。
  • 「性欲を刺激するもの」つまり特定の性癖の人の性欲が刺激されれば十分。フィギュアスケートの衣装や柔道着にフェチズムを感じる人間は非常に多数存在します。

以上の理由から、たとえば「試合で柔道着が乱れた10歳の少年の写真」であっても、定義上、児童ポルノになりうることになります。

常識で考えてばかげている、とお思いでしょう。しかしその「常識」はまったく一般的ではなく、ごく一部でしか通じない社会通念でしかない、かもしれません。前述の遠隔操作ウィルス事件では、プログラマにとっての常識を、警察と検察が知らなかったことで冤罪が生まれました。「常識」は定義に使えないこと、おわかりいただけると思います。

私の「常識」では、三号ポルノのような曖昧な定義は法律で書かれるものではなく、ただちに廃止すべきです。自分の所有している写真が児童ポルノになりうるかもしれない、そんな不安を抱えて生きていたくはありません。

三号ポルノ規定の廃止は、2009年に民主党が提案した法改正案でもあります。当時は審議未了のまま廃案となりましたが、もういちど俎上に載せるべき考えだと思います。

3. 本来の目的を見失う危険性

児童ポルノ禁止法の目的は、児童虐待を防止することです。

第一条  この法律は、児童に対する性的搾取及び性的虐待が児童の権利を著しく侵害することの重大性にかんがみ、あわせて児童の権利の擁護に関する国際的動向を踏まえ、児童買春、児童ポルノに係る行為等を処罰するとともに、これらの行為等により心身に有害な影響を受けた児童の保護のための措置等を定めることにより、児童の権利を擁護することを目的とする。

と、「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」に記載されています。

しかし、その目的を見失う人をよく目にします。気に入らないものを排除するために法を濫用しようとする方々は、国会議員にもいます。

2013年4月26日、自民党の高市早苗議員がみんなの党政調会議を訪れ、新たな児童ポルノ禁止法案の説明を行いました。みんなの党の山田太郎議員のブログにて、その詳細が紹介されています。

http://taroyamada.jp/?p=2014 http://taroyamada.jp/wp-content/uploads/2013/04/jipo.pdf

この改正案において、漫画やアニメーションなど、現在児童ポルノではないとされているものに対し自民党は「児童ポルノに類する漫画等」という表現をしています。

そこには、読者が誤解するようわざと誘導する意図が感じられます。前述したように、創作物は児童ポルノではありません。被害者が存在しないためです。つまり創作物を「児童ポルノ」だと言うと嘘になってしまう。だからあいまいに「児童ポルノに類する」と表現しているのです。

改正案のような書き方では「なるほど、卑猥なマンガは児童ポルノ禁止法で規制されるのか。卑猥なマンガは児童ポルノだから、それは当然だな」と勘違いしてしまう人が増えてしまいます。つまり改正案は「児童ポルノ」という概念を歪曲しようとしているのです。

よく誤解されるのですが、架空の人間を描いている以上、マンガは児童ポルノではありません。しかし改正案には「卑猥なマンガは児童ポルノのようなものである」→「なので、児童ポルノ禁止法で規制すべきである」という理屈で、創作物を規制しようというアイディアが含まれています。社会の風紀をただそうという意志はわかるのですが、言葉の定義を曲解する行為は国民への裏切りだと感じます。

このように、児童ポルノ禁止法をいわば「悪用」しようとする人々がいます。

エロマンガなど猥褻で低俗、人間社会にとって悪性であり排除されるべき愚劣な存在。そうお感じであるならば、別の法(たとえば刑法175条 わいせつ物頒布等の罪)にて対処すべきです。あるいは、175条で規制できないのであれば、別の新たな法律を制定すべきです。私は創作物を規制することには反対ですし、175条に関しても、その価値を疑問視しています。ですが、それはこの問題とは別の話です。今回の件に関して、私は単純に「法を濫用するな」と申し上げたいと思います。

児童ポルノ禁止法の目的は、性的な児童虐待を防止することです。ですから、児童ポルノの定義を「児童虐待である証拠」と明記すべきだとも考えています。

児童虐待の大半は家庭で行われています。 多くの場合、性的な児童虐待の犯人は父親です。 そういった児童虐待を防止するのに、創作物の規制は無意味です。

警察や検察のかたがたは、本当の児童虐待を防止するために賢明になって働いています。人手が足りず、どんなに必死になって動いても、性的な児童虐待はゼロにはなりません。なのに、児童虐待とは無関係な創作物規制に、貴重な人手を割こうというのでしょうか? エロマンガを規制することで、児童虐待が減ると本当にお考えなのでしょうか?

以上が私の意見です。 ただの、たった一人の大学院生の考えです。 私以外のかたはきっと私とは違う考えをお持ちでしょう。

お願い申し上げます。 どうか、一方の意見のみを盲目的に聞くのではなく、児童ポルノの問題に関わるできるだけ多くのかたのご意見を聞き、理性的で論理的な思考をしてくださいますよう、よろしくお願いいたします。