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カリフォルニア州マウンテンビュー在住のソフトウェアエンジニアがいろいろ書きます。

アメリカの大学院、コンピュータサイエンスの修士課程に合格するまで

アメリカの大学院出願について書く。

僕は南カリフォルニア大学(通称USC)のコンピュータサイエンス(CS)修士課程に合格した。

2017年9月2日現在、すでに最初のセメスターの授業は始まり、毎日アルゴリズムの教科書を読んだり問題を解いたりしている。

ちなみはアメリカに来るまでは日本でソフトウェアエンジニアをやっており、その前は京都大学院情報学研究科の修士課程をやった。さらにその前は京都大学農学部で学士号を取った。

僕が合格したのは Master of Science in Computer Science - Scientists and Engineers というプログラムだ。CS以外の学部出身者向けのもので、学部で学ぶような基礎から学び直すことができる。

この課程に入学するためにやったことを以下にまとめる。

TOEFL

TOEFLの勉強については TOEFL 100点を取る学習法、費用、勉強期間、スコアの変遷 などに書いた。

アメリカの大学への出願にまつわる事柄において、TOEFLの点数を高めことが最も時間を要する。可能な限り早くTOEFLの勉強を始めて、余裕を持って出願できるようにしたほうがいい。

また、大学の情報を集める際、英語のReadingができないとそもそも大学のWebサイトの内容がわからないのでどうしようもない。英語ができないと困ることは非常に多いので、人生の早い段階で勉強するとよい。

自分は2016年2月にTOEFL対策を始めて、10月に受験したテストで100点を超えた。アメリカの大学の出願締め切りは11月〜1月くらいが多いので(4月まで申し込める大学もあるが)、時期的にぎりぎりだった。90点に到達してからさらに伸ばすのに時間がかかるので、目標点数にあと一歩の段階であっても油断しないでほしい。

GRE

GRE General Test のスコアと対策、学習法 に書いた。

奨学金

返済不要の奨学金、日本の機関から出ているものをいくつか申し込んだ。

以上に申し込んだがすべてダメだった。なおフルブライト奨学金では、学術分野が人文系でないという理由で不採用となった。

自分の場合、すでに日本の大学を修了しているため、申し込める奨学金がそれほど多くなかった。いつか留学したいと思っている大学生は、いつかと思わず、できれば在学中に出願したほうがよいだろう。

また、学生支援機構の奨学金(返済義務があるためほぼローン)からお金を借りようとも考えたが、問い合わせをしたところ、所得制限に引っかかって応募できないことがわかった。

さらに、日本国庫の教育ローンからお金を借りようともしたが、こちらは、教育を受ける本人はローンを借りることができないとのことだった。日本国庫の教育ローンは、親が子供のためにお金を借りるものらしい。

結局両親から留学費用を借りることにした。USCでの生活は、授業料と生活費をあわせて年間平均600万円くらいがかかる。かなりの投資になるのだが、返済計画や就業の見込みについて、実際のデータをもとに説明をして、納得してもらえた。

ちなみに USC の授業料は単位数で決まる。Master of Science in Computer Science - Scientists and Engineers は修了に37単位が必要で、他のプログラムより多い。そのため、授業料も高額になる。

なお、USCに合格後、大学から出る返済不要の奨学金に応募したところ、 $7500 ぶんもらえることになった。授業料の支払いにだけ使えるので、実質的には授業料部分免除ということになる。「この奨学金は非常に競争的で、限られた人数にしか与えられない」といった説明もあったので望み薄かと思っていたが、ダメ元で応募してみたら採用されてしまった。「ダメそうでもとりあえず申し込む」というのは、意外と有効な戦略だと思う。

成績

アメリカの大学院への出願の際、在学していた大学での成績をすべて提出することになっている。このとき、GPAを計算して入力しなければならない。

僕の、京都大学農学部地域環境工学科でのGPAは3.38, 京都大学大学院情報学研究科でのGPAも、奇しくも同じ数字の3.38だった。

ただし、この数値の算出は簡単ではなかった。

GPAを提出する際に不安だったのが計算方法だ。京都大学大学院情報学研究科では、秀・優・良・可で成績がつけられる。アメリカでのGPA計算ではA, B, C, D, F での成績から数値を算出するわけなのだが、優や良がその Letter のどれにあたるかは明示的に定められていない。

成績表にかかれた説明では、90%以上の点数で秀、80%以上で優、70%以上で良、60%以上で可、となっている。ここから考えると、秀 = A, 優 = B, とすればよさそうな気がするが、事情はそう単純ではない。

僕が学部生の頃に在籍していた京都大学農学部では、秀の成績がなく、優・良・可でつけられていた。80%以上が優、70%以上が良、60%以上が可、という割り当てで、優が最高点になる。農学部での成績表だけを見ると、優 = A, 良 = B, 可 = C になりそうに思える。

優・良・可とABCDの換算にいて、どういう換算表を使うかで、GPAは大きく変動する。僕の成績の場合、もしも秀 = A, 優 = Bの換算表が採用されると、まずいことになる。

アメリカの多くの大学では、修士課程の出願者には3.0以上のGPAを求めている。それも3.0ちょうどでは競争力に乏しいのでできれば3.5以上が望ましい。(ちなみに博士課程ではさらにGPAの最低基準が高くなる)

もし秀 = A, 優 = B, の計算方法が採用されたなら、僕の大学院での成績は基準点に到達していないことになるのだ。もしそうなら、アメリカの大学院への出願はすべて無駄になってしまう。このことがわかったとき、気が気ではなかった。

心配だったので、WESに成績表の査定を依頼することにした。WESは非アメリカの学校の成績表をアメリカの学校の成績に換算して評価してくれる機関だ。USCではWESでの査定は受理していないが、大学によってはむしろWESでの査定を推奨しているところもある。たとえば UPenn こと University of Pennsylvania は、海外大学出身の出願者には WES の査定の提出を強く勧めている。自分が UPenn に出願したときは、第一ラウンドの出願締め切りぎりぎりだったため、WESでの査定が間に合わなかった。

WES での査定の結果、秀 = A, 優 = A, 良 = B, 可 = C の換算が行われ、学部・修士課程ともにGPA 3.38 が算出された。この結果が届いて僕は心底ほっとした。USCはWESの査定結果を受け取らないが、少なくとも広く信頼された機関がGPA 3.38を保証してくれたのだ。アメリカの大学院に進学するという望みは断たれなかった。

なおWESでの査定には数万円がかかる。さらに手続きに一ヶ月近くかかることもある。なので出願の一ヶ月以上前に依頼しておいたほうがいい。

推薦書

多くのアメリカの大学と同様、USCでは出願時に三通の推薦書を提出することになっている。自分は、京都大学情報学研究科に在籍していたときに指導教員の教授と、職場の上司に推薦書を書いてもらった。

7月に研究室に相談のメールを送り、8月に直接相談しにゆき、推薦書を書いてもらい、12月から1月にかけて出願をした。

今になってみるとこれはかなり遅いスケジュールだと思う。奨学金の申し込みをする際に指導教員の推薦文が必要になることもあるので、もっと早く相談したほうがよい。

ところで、自分は8つの大学に出願した。

推薦文を書いて送る教授(と上司)からすると、同じような文章を8回作って8回提出しないといけない。かなり面倒な作業だし、出願者の人生を左右する文章でもあるのでプレッシャーも大きい。あまり気軽に提出できるものではない。自然と、提出は遅れてくる。

できるだけ早く推薦文を依頼しておいて、適度に連絡を取って、リマインドのメールを出したりしながら提出するよう頼むのがよい。

推薦してくださった教授と上司には本当にお世話になりました……。

Stetement of Purpose

アメリカの大学に出願するには、 Statement of Purpose あるいは Personal Statement と呼ばれるエッセイを提出しなければならない。

自分はこれに、大学院で行った研究、仕事で成し遂げたことなどを書いた。

また、大学に入学したら取りたい授業について、なぜその授業を取りたいのか、なども書いた。

さらに、大学院に入学して何がしたいか、修了後にどうしたいか、修了してから五年後は何をしていたいか、何十年も先の未来ではどんな人間になっていたいか、何を達成しているか、などにも焦点を当てた。

このあたりのエッセイの書き方は、指南書が色々出ているので参考にするとよい。自分はこの本を読んで使った。

出願する大学によって、エッセイの書式は異なるが、書く内容はどこもだいたい同じものでよいと思う。

大学によっては、 Statement of Purpose に加えて、 Personal History Statement というタイトルで出願者のバックグラウンドを書かせるところもある。「私の一族で大学を出たのは私だけ」「経済的な苦境を乗り越えてきた」などの過去があればここが加点要素になると思う。自分は特に加点要素はなかったので適当に書いた。

その他

他の大学ではそれほどないことなのだが、 USC では、出願時に指定されていない書類や業績を提出することもできる。

自分は京都大学大学院情報学研究科を修了していたので、修士課程で行った研究の業績と、論文を pdf ファイルにして提出した。研究を行った経験のある出願者は少ないはずなので、それなりにアピールポイントになったと思う。

またここで、大学生の頃にやっていた、「京都大学で楽しく表現規制に反対する会」という、表現規制問題について勉強する会の活動も書いた。この会では、うぐいすリボンなどの団体と協力して、学園祭で法学の教授を呼んで講演会を開催したり、法の観点から表現規制について学ぶ勉強会を開いたりしていた。もしかしたら合格の理由はこれかもしれない。 USCに合格したい人はぜひ反表現規制の活動をするといい。

出願結果

合格した大学

不合格だった大学

冒頭にも書いた通り、 USC に合格した。加えて、 UCI にも合格した。それ以外のところはすべて不合格だった。

ちなみに、この出願した大学を選んだ理由は以下の通りだ。

  • 授業料が高額すぎないこと
  • 情報学の修士号を持っていても出願できること
  • 修了までに取る授業が自分の希望に沿っていること

この条件で、 US News Rankingsコンピュータサイエンスのランキングから探していった。

情報学の修士号を持っていると、出願できない大学がけっこうある。たとえば UC BerkeleyUCLA の出願ページには、「すでに同じ分野や近い分野の同程度の学位を持っている人は入学できない」と書いてある。自分は京都大学大学院で情報学の修士号を取っているため、このポリシーのある大学には出願できないことになる。情報学( Informatics )とコンピュータサイエンスは違うものだと言い張ることもできるが、ちょっと厳しいと思う。

同程度の学位を持っている人への対応は、大学によって異なっている。自分が入りたいと思った大学リストのうち、半分くらいの大学はこのポリシーを持っていた。FAQページにそのような注意事項が書かれていない大学でも、出願の Webページのフォームで突然このポリシーが説明されることもある。不安だったので、自分は、申し込む大学すべてにEメールで質問した。

なおほかに、出願締め切りが遅い大学(University of Wisconsin–MadisonTexas A&M University, Northeastern University)にもいくつか出願するつもりだったが、USCからの合格通知が来たので出願しなかった。

おまけ

僕がアメリカの大学院に出願するきっかけになった、情報科学若手の会というイベントがあるのですが、その第50回が開催されるそうです。

wakate.org

進路に悩んでいる高校生・高専生・大学生はぜひ行くとよいです。学校を卒業した方も、興味があればぜひ参加してほしいです。

9/18 (月) が申し込み締め切りなので、お気をつけて。